役員層が英語力強化に率先して取り組み、社員一人一人の意識を変えていく
新家 伸浩 様
パナソニック コネクト株式会社
執行役員 ヴァイス・プレジデント
チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(CHRO)(兼)人事総務本部 マネージングダイレクター、最高健康責任者
1. ベリタス (VERITAS) 導入の背景
社内の英語力強化に臨むにあたり、組織をリードするマネジメント層が率先して取り組むべきと考えた
改めまして、昨年2023年の夏以来、貴社の執行役員の皆様の英語力強化プロジェクトにおいて、弊社ベリタスのプログラムをご活用頂きありがとうございます。
本プロジェクトは、原則、貴社の執行役員の皆様のうち、ほぼ全員を対象としたプロジェクトと、私どもは理解しております。英語の中級者の方から上級者の方まで、CEOの樋口様も含み、十数名の役員の皆様が一斉に弊社のインテンシブなプログラムを受講されました。
本日は、本プロジェクトをリードされたCHROとしての新家様、および、実際に弊社プログラムを2ターム、約10ヵ月間受講された一受講者としての新家様に、本プロジェクトの導入の背景、その効果、および弊社プログラムへの評価・感想などにつきまして、お話を伺えればと考えております。
戸塚:まずは、ほぼ全執行役員の皆様を対象とした英語力強化研修を実施されるに至った背景と経緯を教えてください。
新家様:パナソニック コネクトは、2020年7月に米ブルーヨンダー社に20%出資し、2021年9月に同社を100%子会社化しました。この買収の背景には、ソフトウェア事業の成長を取り込むという目的に加えて、同社とのコラボレーションを進めていくという目的が存在します。2022年以降、本買収後の取り組みとして、後者の目的を推進するステージに移ってきました。同目的を遂行するための社内の英語力向上という課題に取り組む必要性に迫られる中、まずは役員の英語力強化に一斉に取り組もうという経営判断がありました。
ブルーヨンダーに加えて、パナソニック アビオニクスがカリフォルニアに本社を構えたグループ会社で弊社の傘下にあります。パナソニック コネクトは、これらの米国2つのグループ会社とのコラボレーションを進めていくことを目標としています。同米国2社の人事制度は、世界的な競争環境の変化の中で進化を続け、非常に優れたものとなってきています。パナソニック コネクトとしては、生産性の高い両社の仕組みから積極的に学び、新たな制度を取り入れていこうと考えています。
その際に、やはり、言語が壁になりえます。この壁を取り払うために、社内の英語力強化に全社的に取り組む必要があります。社内の英語力強化に臨むにあたり、まずは、組織をリードするマネジメント層が率先して取り組むべきと考え、ベリタスの英語プログラムを、執行役員層の英語力強化プロジェクトに活用することを決めました。
2. 本プロジェクトの特徴
社員の全員が多様な人材と交流し、通訳を介さずして、密なコミュニケーションをとれることが必須
戸塚:パナソニック コネクトの全社的な英語力向上の取り組みの特徴を教えてください。
新家様:パナソニック コネクトの全社的な英語力向上の取り組みの特徴は、対象者が社員全員ということです。
これまでのパナソニックグループのビジネスというのは、国内拠点で企画・製造をし、それらの商品を海外市場で販売する、または、海外拠点で製造し、海外市場で販売するというモデルが中心でした。そのような事業環境下では、英語力が必要な人材は組織内に限られているため、結果として語学研修の必要性も限られていました。
パナソニック コネクトの全員対象の英語力向上の取り組みは、グループ内企業であるブルーヨンダーおよびパナソニック アビオニクスから、より先進的な経営の仕組みを積極的に学ぶというゴールを達成するための手段であるため、英語力強化の必要性が迫られる人材は限定されません。海外の進んだ経営システムを学ぶためには、社内の全員が多様な人材と交流し、通訳を介さずして、密なコミュニケーションをとれることが必須になります。
戸塚:お話を伺いますと、貴社の全員対象の英語力向上の取り組みは、日本のトップ企業が取り組む事例としては、類をみないレベルではないかと考えますが、実現にあたり、どのような課題を乗り越える必要がありますか?
新家様:英語を学ぶ社員一人一人の意識が変わることが第一です。当然ですが、当初は、このような取り組みを始めるにあたり、社内には一定の抵抗もありました。だからこそ、変革を起こすには、組織の上層部にいる役員層が率先して英語学習に取り組み、社員のロールモデルとなる必要があると考えたのです。
社員一人一人が英語を学び直し、よりスムーズなコミュニケーションが取れるようになることで、これまで見逃していたかもしれない事業機会が生まれてきます。その機会に対して、社員一人一人がチャレンジをしていくことを目指しています。このような実体験を積み上げることで、組織が変わっていくと、私は信じて取り組んでいます。
変化を実現するには、トップが方向性を明確に示さなければなりません
新家様:パナソニック コネクトでは、この7年の間に、カルチャー&マインド改革に取り組んできました。この改革においては、いわゆるアーリーアダプターと呼ばれる一部の層が組織内で変化の流れを率先して生み出し、その流れがきっかけとなり、組織全体が変わっていきました。私は、CHROとして、様々な改革に取り組んできましたが、そのような初期の流れの変化が組織全体に広がっていく様子を、何度として目の当たりにしてきました。
カルチャー&マインド改革においても、どんな改革においても、一定期間後も変わりきれない層が一定数残ります。それでも、改革の手を緩めず、前に進めていくことが大切と考えています。それが、組織全体を変えていく鍵になると、経験則的に信じています。語学の習得についても同じことが言えると考えています。今回の全員対象の英語力向上の取り組みを通じて、必ず、社内を変革できると信じて取り組んでいます。
変化を実現するには、トップが方向性を明確に示さなければなりません。そうでなければ、人は信じてついてきません。まずは、組織の上層部が英語力強化に本気で取り組むことです。それによって、流れが生まれ、他の社員がついてくると信じています。そのため、役員層に対しては、特にインテンシブなベリタスのプログラムを選択しました。
3. ベリタス (VERITAS) のプログラムへの感想
役員同士が役員会の前後などに、ベリタスの自宅学習課題の話題で盛り上がっていました
戸塚:ベリタスのプログラムを修了した一受講者として、プログラムの感想を聞かせてください。
新家様:なにより、宿題が大変でした(笑)
それでも、ベリタスのプログラムでは、一週間の学習リズムが構築されることで、明確な成果につながったと考えています。2ターム、約10ヵ月にわたる取り組みでしたが、仕事のスケジュールの中に、自宅学習と毎回のクラス時間を強制的に組み込む方法により、良い学習リズムが生まれました。
実は、受講当初は、完走することへの懸念を持っていましたが、取り組んでみると、毎週同じ曜日の同じ時間帯にクラスを設定するアプローチが、かえって良いリズムを生み出し、非常に効果的であったと考えています。
具体的には、毎週同じ曜日にクラスを設定したことで、1週間を通じての自宅学習に取り組むペースにも、徐々にルーティンが出来上がっていきました。1週間のなかで、どの曜日にどの課題に取り組み、土日の空き時間をどう過ごすのか。仕事と英語学習にリズムが出来上がっていくと、当初考えていたほどハードなものではなく、結果集中して取り組むことができました。
毎回のクラスも、フローに明確なリズムがあり、各プラクティスに時間を区切って取り組むことから、だらだらと時間が過ぎるのではなく、集中して受講することができました。
戸塚:同じ時期にベリタスプログラムを受講されていた他の役員の方々からは、どのような感想を聞かれましたか?
新家様:他の役員の受講者からも、ポジティブな声を多く聞きます。ベリタスのプログラム受講開始以降、海外拠点とのコミュニケーションに対して、より自信をもって臨むことができるようになったという声が圧倒的に多いです。また、英語が苦手だった役員については、英語会議において、内容をより正確に把握できるようになったという感想を聞きます。また、海外拠点の側からは、本社の役員のメッセージが明確に伝わるようになったという感想があります。結果として、組織内のコミュニケーションが密になり、お互いへの信頼の度合が上がっていると感じます。
プログラム受講中の10ヵ月の間は、役員同士が、役員会の前後などに、ベリタスの自宅学習課題の話題で盛り上がっていました。その意味で、役員同士の一体感が生まれたことも副産物です。負荷の大きいプログラムですが、その分しっかりと成果が生まれ、受講してよかったという声が非常に多いです。
CEOの樋口も自ら受講し、ベリタスのプログラムを受講してよかったという感想を述べていました
新家様:(ハーバード経営大学院でMBAを取得し、グローバルビジネスの経験が豊富な)CEOの樋口も、ベリタスのプログラムを自ら受講しましたが、先日、海外ビジネススクールの学長を招いた社内向けのパネルディスカッションの後に、ディスカッションのファシリテーションを以前よりスムーズに進めることができたと言っていました。ベリタスのプログラムを受講して、良かったという感想を樋口自身が述べていました。
4. ベリタス (VERITAS) の各プラクティスの成果
流暢さよりも、メッセージを簡潔かつロジカルに伝えることが大切だと再認識
戸塚:ベリタスのプログラムのなかで、好きなプラクティスを教えてください。
新家様:好きなプラクティスは複数ありますが、中でも、ビジネスリーダー・インタビュー・ディスカッション(*1)は、非常に効果的と感じました。ビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ等のグローバルビジネスリーダーのインタビューを多面的にディスカッションする内容ですが、単なる英単語・英語表現の学習ではなく、ビジネスリーダーとしての考え方、リーダーシップスタイル、ビジョン形成、効果的なメッセージの伝え方等、踏み込んだ学びがあり、非常に効果的なプラクティスであると感じました。
クラス内では、ベリタスの担当コーチから、様々な深い質問が投げかけられました。週ごとに取り上げるビジネスリーダーを、どのように評価するか、どこに魅力を感じたか、前週までに取り上げた他のビジネスリーダーと比較し、どこに説得力があり、どこに改善点があるのか、等々を多面的に議論しました。このプラクティスを通じて、私自身のリーダーシップスタイルとメッセージの伝え方を再検証するきっかけになりました。
また、取り上げるビジネスリーダーがグローバル規模で活躍する人物であったことから、多様な価値観や考え方を学ぶことができました。魅力的なグローバルリーダーの多くは、過去の個人的な体験や失敗を積極的に語ります。そして、それらの経験から何を考え、それがどのように会社の理念やビジョンにつながったのかを語るリーダーには説得力があると考えました。グローバルな企業グループのCHROとして、自分が何を語るべきなのか、再考する良い機会となりました。海外拠点の社員も含め、国境を越えて、メッセージを発信するためには、英語の語彙力・表現力を身に着け、流暢さに磨きをかけることも大切ですが、メッセージ自体に魅力があり、それを簡潔かつロジカルに伝えることが大切だということを再認識しました。
なかでも、スターバックスのCEOであるハワード・シュルツ氏のインタビューからは強烈な印象を受けました。同氏の発するメッセージは非常に明確で力強く、心に響く内容だったと考えています。同社は、コーヒーを販売しているのではなく、体験を提供しており、ブランドを大切にするという同社のコアな価値観と、同氏の哲学の関連性が印象深く、大きな学びとなりました。
ジャック・ウェルチ氏のインタビューからも学びは大きかったです。当時の同氏の経営手法と、その後の同社の経営状況を考えながら、同氏を他のビジネスリーダーと比較し、多面的にクラス内でディスカッションをすることで、経営者としての気づきが多くありました。
ベリタスのコーチは、皆、深く突っ込んだディスカッションを進める力に長けているため、物事を多面的に考え議論する助けとなってくれました。
ビジネスリーダーのインタビューを多面的に議論し、ディスカッション力向上に加えて、ビジネスリーダーにふさわしい英語表現およびコミュニケーションメッセージを学ぶプラクティス
(スピーチプラクティスを通じて)個人的体験を語りビジョンに結び付け、どのような構成で伝えるかについて、得られた学びは大きかったです
戸塚:ベリタスでは、他にビジネスリーダー・スピーチ・プラクティスがありますが、こちらはいかがでしたか?
新家様:ビジネスリーダー・スピーチ・プラクティス(*2)も、非常に学びのある内容でした。2タームを通じて、かなりの数の海外のビジネスリーダーのスピーチに取り組みましたが、中でも、スティーブ・ジョブズ氏のスピーチが、やはり印象深いです。スピーチの後半で、同氏が未来へ向けて語る言葉が心に響きました。スピーチの中で、どのような個人的体験を語りビジョンに結び付け、どのような構成で伝えるかについて、様々なビジネスリーダーのスピーチ教材を多面的にディスカッションすることで、得られた学びは大きかったです。
ビジネスリーダーのスピーチを題材にプレゼンテーションおよびディスカッションに取り組み、プレゼンテーションおよびディスカッション力向上に加えて、ビジネスリーダーにふさわしい英語表現およびコミュニケーションメッセージを学ぶプラクティス
新家様:5 Line Writing(*3)というロジカル・ライティング・プラクティスも、非常に効果があったと考えます。これは、様々なテーマに対して、いわゆるピラミッドストラクチャーに沿った体系で、結論ファーストで文章を書き、独立した3つの理由により自身の結論をバックアップするというプラクティスですが、これは、ロジカルにコミュニケーションをするスキルを身に着ける上で、非常に効果的なものだと考えます。日本のビジネス界でも、論点を明確にして伝えるスキルは非常に大切にされていますが、改めてストラクチャーを強く意識して、論点を整理しながら書く、というベリタスでの訓練からは、学びが多くありました。
慣れてくると、徐々に、様々なテーマに対するライティングのスピードが上がっていきました。自分の書き上げたライティングの宿題を提出すると、ベリタスの担当コーチから論点やストラクチャーへのフィードバックをもらいました。コーチから客観的に指摘をされると、1つ目の理由と3つめの理由に重複がみられたり、結論に不明瞭さが残ることで説得力が不足していたり等、気づきを与えてもらいました。英語でのプラクティスなのですが、このプラクティスは、英語・日本語に関わらず、論理コミュニケーション力自体の強化に効果があると考えます。
ピラミッドストラクチャーに沿って、様々なテーマについてのロジカルライティングに取り組み、簡潔かつロジカルなコミュニケーション力を強化するプラクティス
(英語の苦手だった)事業部のトップ自らが英語でメッセージを発信するようになりました
新家様:リーダーシップ・ビジョン・プレゼンテーション(*4)というプログラム最終日に行う3分間のプレゼンテーション・プラクティスも、受講した役員にとって、学びの大きなものでした。これまでは、事業部のNo.2に英語のプレゼンテーションを任せるといったケースも見られたのですが、このプレゼンテーション・プラクティスを通じて、自信が強まったことにより、事業部のトップ自らが英語でメッセージを発信するようになりました。
ビジネスリーダーとして、チームメンバーの動機付けとゴール設定を目的に、力強いビジョンをメッセージに込めて、プレゼンテーションに取り組むプラクティス
5. 英語力強化の必要な対象者の変化
英語コミュニケーション力が必要な人材は、一部の層に限らない
戸塚:これまで貴社が取り組まれてこられたカルチャー&マインド改革での成功経験は、貴社の全員対象の英語力向上の取り組みにどのような効果を生み出していますか?
新家様:これまでの様々な改革においても、導入当初は、いろんな障害があり、組織内からは否定的な声も一定ありました。しかし、改革の方向性を信じ、コミットして進めていくと、次第に成果が明確に表れていきました。そのような改革の成功体験を組織として共有しているからこそ、全員対象の英語力向上の取り組みについても、必ず明確な成果が生まれると確信しています。
ブルーヨンダーとの連携の中においては、第一ステージとしては、同社からの先進的な仕組みや制度を日本側が謙虚に学び、取り入れていくことがゴールです。将来的には、第二ステージとして、日本側から海外のグループ会社に向けて、先進的な取り組みを展開していくというベクトルを実現したいと考えています。
昨年ブルーヨンダーを訪問した際に目の当たりにしたのですが、人事制度について言えば、同社の仕組みは、現在のパナソニック コネクトの制度よりも優れている部分が多かったです。今は、謙虚に学ぶ段階だと捉えています。
パナソニック コネクトでは、ジョブ型人材マネジメントの国内全社員への導入、社員の自律性に任せたエコシステム構築など、これまで経営をモダナイズしていくための改革を進めてきました。ブルーヨンダーとは、親会社・子会社という関係を超えた企業グループ内の仲間として、お互いが良いところを取り入れ、グループ全体として変化を加速していきたいと考えています。
戸塚:最後に、役員向け・社員向けの英語力強化を検討している他社の人事担当者様に共有されたいメッセージがあれば、お願いします。
新家様:これまでの英語研修においては、海外事業の担当者や、海外とのコミュニケーションの必要性に迫られた役員のみを対象とするケースが圧倒的に多かったのではないかと考えます。しかし、日本の国際競争力の低下が課題視されるなかで、海外からの先進的な経営システムを学び、取り入れていくことが一層不可欠になった昨今においては、英語コミュニケーション力が必要な人材は、一部の層に限られない状況になってきていると考えます。日本経済全体が生き残りをかけた厳しい環境のなかで、再浮上していくためには、組織内の社員全員の英語力の底上げが必要になってきていると考えます。
日本全体で、英語力の必要な人材の捉え方を変え、一丸となって取り組めば、未来につながるでのはないか
新家様:パナソニック コネクトでは、これまでもカルチャー&マインド改革の実行によって、様々な取り組みを行ってきましたが、社員全体の英語力底上げを、過去にない規模で推進していきます。日本全体で、英語力の必要な人材の捉え方を変え、多くの企業、多くの個人が一丸となって取り組むことができれば、素晴らしい未来につながるのではないかと考えています。
戸塚:本日は、長い時間に渡りインタビューさせて頂き、誠にありがとうございました。